相続財産の管理


相続人がいなかったり,いたとしても全員が相続放棄をした場合,被相続人にお金を貸したり,被相続人から不動産を売ってもらってまだ登記ができていない人などは困ってしまいます。
このような場合に,「相続財産管理人」という人を選任してもらい,その人を相手にして訴訟を起こしたり,登記手続をしてもらったりすることがあります。

以下では,相続財産管理事件の大まかな流れを説明します。

 1 相続財産管理人の選任(民法952条1項,家事事件手続法39条・別表第1の99)
 2 相続財産管理人選任の公告(民法952条2項)
 3 相続債権者・受遺者に対する請求申出の公告(民法957条1項)
 4 相続財産の換価・清算
 5 相続人捜索の公告(民法958条,家事事件手続法39条・別表第1の99)
 6 特別縁故者に対する財産分与(民法958条の3第1項,家事事件手続法39条・別表第1の101)
 7 相続財産管理人の報酬付与(民法953条・29条2項,家事事件手続法39条・別表第1の99)
 8 残余財産の国庫への引継ぎ(民法959条)


相続財産管理人の選任

民法952条1項は 「相続人のあることが明らかでないとき」は,「利害関係人」や「検察官」の請求によって,「相続財産管理人」が選任されるとしています。

 

どのようなときに選任の申立てができるか

「相続人のあることが明らかでないとき」とは,持って回った言い回しですが,
 被相続人の戸籍には相続人となれる人がいない場合
 戸籍上は相続人となれる人がいるが,全員相続放棄をしてしまった場合
は,「相続人のあることが明らかでないとき」にあたります。

ですから,前提として,被相続人の戸籍・除籍・原戸籍をきちんと調査しなくてはなりません。
戸籍などを置いている役所が近くであればよいのですが,遠方にある場合は,郵送で戸籍などを申請することができます。
戸籍などの調査は,大変な場合があるので,弁護士や司法書士に依頼するのもいいかもしれません。
戸籍上は相続人がいなくても,実際には相続人がいる場合もあり得るので(たとえば,認知していない子どもがいる場合など),法律では「相続人がいない場合」ではなく,「相続人のあることが明らかでないとき」に相続財産管理人の選任ができるとなっています。
なお,相続人はいるが,行方不明だったり,生きているかどうか分からないという場合は,相続財産管理人ではなく,不在者管理人(民法27条)を選任してもらいます。

 

誰が選任の申立てをできるか

民法952条1項は,「利害関係人」または「検察官」が相続財産管理人の選任を請求できるとしていますが,実際には,検察官は,まず選任の申立てを行ってくれません。
ですから,「利害関係人」でなければ,相続財産管理人の選任の申立てはできないのが実情です。
では,どのような関係であれば,利害関係人といえるでしょうか?

まず,被相続人の債権者は,利害関係人にあたります。
「被相続人から不動産を買ったが登記をまだ終えていない」

とか,

「被相続人に代金を払ったのに商品をまだもらっていない」

とか,そのような場合に選任の申立てができます。

反対に,被相続人に弁済したいという人(債務者)も利害関係人にあたります。
被相続人に債務がある人で,費用をかけて相続財産管理人の選任を申し立ててまで,債務を弁済したいという人は少ないと思いますが,何らかの理由で債務を弁済する必要がある場合には,この申立てをしなければなりません。

被相続人から財産を遺贈された人(受遺者)も利害関係人にあたり,相続財産管理人の選任を申し立てることができます。

相続放棄をした人も,利害関係があれば,選任を申し立てることができます。

この他に,生活保護を実施した市町村長や,道路工事や河川工事のため土地を買収する場合の知事も利害関係人にあたるとされています。

特別縁故者として相続財産の分与を請求しようとする人も利害関係人にあたり,相続財産管理人の選任を求めることができます。

 

相続財産管理人の選任にかかる費用

相続財産管理人選任の申立てをするには,戸籍関係の書類を取り寄せ,分かる範囲で遺産を調査したり・・・とそれなりに大変です。
これを弁護士に依頼するには,弁護士費用がかかります。
これだけでなく,相続財産管理人には,弁護士が選任されることが多いのですが,相続財産管理人の報酬の手当となるお金も予納するのが普通です。

自分で相続財産管理人の候補者を指定できる場合は,その候補者と費用について話し合えばよいのですが,そうでない場合には,お金を予納するよう裁判所から言われると思います。

予納金の額は,事案によってまちまちですが,20万円は最低でもかかると思っていたほうがよいです。

相続財産から債務を弁済しても,余りが十分にある場合は,この予納金が戻ってくることもあります。
ですが,予納金が戻らないこともありますので,相続財産管理人選任の申立てをするには,お金を損することもあると覚悟をして下さい。

 

相続財産管理人選任の公告

申立てをして,家庭裁判所が認めると,相続財産管理人が選任されます。
相続財産管理人には,弁護士が選任されることが多いです。

相続財産管理人が選任されると,家庭裁判所は「相続財産管理人選任の公告」をします(民法952条2項)。
この「公告」というのは,「官報公告」という刊行物に,このような感じで載ります。

  平成□□年(家)第□□号
  北海道釧路市□□□(申立人の住所)
  申立人 □□□□(氏名)
  本籍地 北海道釧路市□□□(被相続人の本籍)
  最後の住所 北海道釧路市□□□(被相続人の住所)
  死亡の場所 北海道釧路市□□□
  死亡年月日 平成□□年□□月□□日
  出生の場所 北海道釧路市□□□
  出生年月日 平成□□年□□月□□日
  職業 □□(被相続人の職業が分からなければ「不詳」となります)
  被相続人 亡 □□□□(氏名)
  北海道釧路市□□□(管理人の住所)
  相続財産管理人 弁護士 □□□□(氏名)

この公告には,相続人を探すという目的があります。
戸籍には載っていないが,実は相続人がいる場合があるからです。

ただ,相続人がこの公告を見て名乗り出るということは,普通はありません。

 

相続債権者・受遺者に対する請求申出の催告

相続財産管理人選任の公告をしてから2か月経っても,相続人が現れないときは,
「相続債権者・受遺者に対する請求申出の公告」というのを行います(民法957条1項)。

この公告は,家庭裁判所ではなく,相続財産管理人が行います。
行うとはいっても,実際には以下のような内容の官報公告を出すよう官報販売にお願いします。

  本籍 北海道釧路市□□□
  最後の住所 北海道釧路市□□□
  被相続人 亡 □□□□
  右被相続人の相続人のあることが不明なので,一切の相続債権者及び受遺者は,
  本公告掲載の翌日から二箇月以内に請求の申し出をして下さい。
  右期間内にお申し出がないときは弁済から除斥します。
  平成□□年□□月□□日
  北海道釧路市□□□
   相続財産管理人 弁護士 □□□□

 

相続財産の換価・清算

請求申出の公告を行うとともに,相続財産の換価・清算手続に入ります。

相続財産管理人は,債務を弁済する前提として,債権の総額を確定します。
そのために,「請求申出の公告」を行うのです。

相続財産管理人は,請求申出の公告を見て「債権の支払をしてくれ」という債権者や
「被相続人から遺産を遺贈された」という受遺者からの届出を受け付けます。
債権があるかどうか疑問がある場合は,訴訟になることもあります。
また,もともと知れている債権者(申し立てた債権者や登記簿に載っている債権者など)や受遺者も弁済の範囲に含まれます。

請求申出の公告の期間中(普通は2か月間)は,債権者が他にもいるかもしれませんので,弁済を拒絶することができます(民法957条2項,928条)。
ですが,請求申出の公告の期間が満了した後は,債権を全額支払えるのであれば全額支払い,全額支払うほど相続財産がないのであれば,可能な範囲で配当を行います(民法957条2項,929条)。

相続財産を換価(売却)するには,競売の方法によると民法には書かれていますが(民法957条2項,932条),実際には,家庭裁判所から「権限外行為の許可」をもらって任意売却をすることが多いです(民法953条,28条)。
任意売却のほうが柔軟ですし,価格も高いことが多いからです。

相続財産より債務のほうが多い場合で,配当により財産がなくなった場合には,それで「管理終了」となります。

もっとも,訴訟を起こすために相続財産管理人の選任を申し立てたのであれば,その訴訟が終わるまでは「管理終了」とはならないのが普通です。

 

相続人捜索の公告

相続財産の清算が終えて,なお残余の財産があるときは,
 1 相続人が出現すればその人に引き継ぐ
 2 特別縁故者がいればその人に全部又は一部を分与する
 3 国庫に引き継ぐ
というようになります。

「請求申出の公告」の期間(普通は2か月)が満了すると,その次は,相続財産管理人の申立てにより,「相続人捜索の公告」をするための審判が行われます(民法958条)。
「相続財産管理人選任の公告」と「請求申出の公告」をするには,審判は不要なのですが,この「相続人捜索の公告」をするには,審判の手続をとります(家事事件手続法39条・別表第1の99)。

清算を終えた後も財産が残る場合には,以下のように相続人捜索の公告がされます。

  次の被相続人の相続財産に対し相続権を主張する者は,
  催告期間満了の日までに当裁判所に申し出て下さい。
   平成□□年(家)第□□□号
    北海道釧路市□□□
    申立人 相続財産管理人 弁護士 □□□□
    本籍 北海道釧路市□□□
    最後の住所 北海道釧路市□□□
    死亡の場所 北海道釧路市□□□
    死亡年月日 平成□□年□□月□□日
    出生の場所 北海道釧路市□□□
    出生年月日 平成□□年□□月□□日
    職業 □□(被相続人の職業が分からなければ「不詳」となります)
    被相続人 亡 □□□□(氏名)
    催告期間満了日 平成□□年□□月□□日

この「催告期間満了日」は,公告をしたときから6か月を下回ることができません。
この期間内に相続人が現れなければ,「相続人がいない」ということが確定します。
そして,残った財産について「特別縁故者」が財産分与を請求します。

 

特別縁故者に対する財産分与

民法958条の3第1項は,相続人がいないことが確定した場合で,相当と認めるときには,
 「被相続人と生計を同じくしていた者」
 「被相続人の療養看護に努めた者」
 「その他被相続人と特別の縁故があった者」
の請求によって,残余財産の全部又は一部を分与できるとしています。

この制度を「特別縁故者に対する財産分与」といいます。


申立て

まず,「自分は特別縁故者だ」と主張する人からの申立てがなければなりません。

この請求ができるのは,相続人捜索公告の期間が満了してから3か月以内です(958条の3第2項)。
3か月が過ぎてしまうと,たとえば内縁の妻のように,どれだけ生前被相続人に尽くしたとしても,財産の分与が認められることはありません。

 

特別縁故者

「被相続人と生計を同じくしていた者」とは,たとえば,相続権のない内縁の妻が典型例です。
ただし,相続人がいない,又は,全員が相続放棄をしていることが大前提です。
このような場合は,それほど多くないように思います。

相続人ではないが「被相続人の療養看護に努めた者」も,特別縁故者として分与を求めることができます。
たとえば,相続人ではないいとこが被相続人の療養看護をした場合が考えられるでしょう。
県立の老人ホームが特別縁故者と認められた例もありますが,一般化できるかどうか分かりません。

「その他被相続人と特別の縁故があった者」は,問題になる規定です。
私自身は,国庫に財産を引き継ぐくらいなら,特別縁故者に対して財産を分与したほうがいいとは思います。
ですが,「親類縁者として通例の」骨折りくらいであれば特別縁故とはいえないとした裁判例もあります。
特別縁故者の申立ては認められないこともあるということは肝に銘じて下さい。

 

財産の分与

特別縁故者と認められれば,その次に残余財産のうちどの程度が分与されるかが決められます。
全部の財産を分与という場合もあれば,一部のみ特別縁故者に分与して,それ以外は国庫に引き継ぐ場合もあります。

 

相続財産管理人の報酬付与

相続財産管理人は報酬付与の審判を申し立てることができます(民法953条,29条,家事事件手続法39条・別表第1の99)。
報酬は,申立人が最初に納めた予納金から支払われることもあります。
逆に,債務を全額弁済しても,まだ財産がたくさんある場合には,予納金は返ってくることになります。


残余財産の国庫への引継ぎ

特別縁故者からの分与の申立てがない場合や,特別縁故者に対する分与や報酬付与を終えてもまだ財産が残っている場合は,その財産は国庫に帰属します(民法959条)。
不動産が売れない場合,国はなかなか不動産のままでは財産を受け取ってくれないようです。
ですから,不動産が残っている場合は,なんとか売却しようと努めます。