個人再生について

個人再生ではいくら支払うのか

個人再生とは,裁判所の関与のもと,債務(借金)を強制的に圧縮し,分割で支払う手続です。
それでは,個人再生ではいくら支払うことになるでしょうか?


普通の場合

個人再生をする場合は,住宅ローン以外の債務を以下の基準で支払うのが普通です。
(民事再生法231条2項,241条2項)

 債務の総額が0~100万円       債務総額と同じ額を3~5年で支払う
 債務の総額が100万~500万円     100万円を3~5年で支払う
 債務の総額が500万~1500万円    債務総額の5分の1を3~5年で支払う
 債務の総額が1500万~3000万円   300万円を3~5年で支払う
 債務の総額が3000万~5000万円   債務総額の10分の1を3~5年で支払う

相談を受ける方のほとんどは,住宅ローン以外の債務が100万~500万円なので,
大雑把に言えば「3年間で100万円(1か月約2万8000円)」が個人再生の目安です。


財産が多い場合

個人再生では,財産の価値の分は最低支払わなければならないという原則があります。
これを清算価値保証原則といいます(民事再生法230条2項,174条2項4号,241条2項2号)。
法律では「債権者の一般の利益に反する」となっていますが,これは「現在持っている財産の分は最低支払わなければならない」ということです。

ですから,退職金,預貯金,過払金,保険解約返戻金などが予想外にある場合,先ほどの「3年間で100万円」よりも多くの額を返済しなければならないこともあります


給与所得者等再生の場合

この他,給与所得者等再生をする場合は,「可処分所得の2年分」を支払わなければならないという決まりもあります(民事再生法241条2項7号)。
ですが,この条件は必ずしも問題になるわけではないので,一応頭に入れておく程度でよいのではないかと思います。


個人再生を利用するのはどういう場合か

個人再生とは,債務の総額を圧縮し,それを3~5年で分割弁済するというものです。
ですから,個人再生をするには

 1 収入がきちんとあること

が第1の条件です。
アルバイトやパートでも個人再生はできるのですが,3~5年間は安定した収入の見込みがなければなりません。
ただし,本人に収入はないが,家族には収入があるというケースでやることもあります。

また,法律上,
 2 住宅ローン以外の債務の総額が5000万円を超えないこと
が条件とされています(民事再生法221条1項)。

個人再生には,「住宅資金特別条項」というものがあり,このメニューを使うと,
 住宅ローンは約定どおり弁済し,住宅ローン以外の債務は圧縮して分割弁済する
ということができます。
この「住宅資金特別条項」がありますので,「住宅を残したい」という希望がある場合は,まずこの制度を使えるかどうかを考えます。
ただ,このメニューも,自宅に住宅ローン以外の借金の抵当権が付いていたりすると使えません。
住宅資金特別条項を使えるかどうかは,弁護士にご相談下さい。

また,過度の浪費やギャンブルが原因で借金が増え,破産しても免責にならなさそうな場合には個人再生を選ぶ場合があります。
個人再生は,破産と異なって,どんな理由であってもいいからです。

その他に,「破産はどうしてもしたくないが,全額を返すこともできない」という場合も個人再生を選択します。
私自身の考えでは,普通は破産のほうがいいと思うのですが,どうしても破産はしたくないという人は,個人再生で受任します。


個人再生のメニュー

個人再生は,住宅ローンの有無・職業・債権者の種類によって,メニューが違ってきます。

 

住宅資金特別条項

先に説明しましたように,「住宅ローンが残っていて,住宅はどうしても残したい」という場合には住宅資金特別条項ありの個人再生を行います。
これは,住宅ローンはそのまま支払い,それ以外の借金は圧縮してもらって分割返済するというものです。
住宅ローンを滞納していなければこれまでどおり支払いますし,住宅ローンの滞納がある場合や月々の支払額を減らさなければやっていけないという場合には,住宅ローンの返済方法を変更するメニューもあります。
保証会社が代位弁済した後も個人再生をする方法がありますが,6か月の期間制限がありますので(民事再生法198条2項),お早めにご相談下さい。
住宅資金特別条項を付けるかどうかを決めた上で,小規模個人再生か給与所得者等再生かを選びます。


小規模個人再生

小規模個人再生を利用できる条件については,民事再生法221条に書かれています。

 1 将来において継続的に又は反復して収入を得る見込みがあること
 2 住宅ローンなど以外の債務が5000万円以下であること

再生計画案に反対する債権者が半数未満で,かつ,反対する債権額が2分の1未満の場合は,小規模個人再生の計画案が可決されます(民事再生法230条6項)。
ですが,再生に反対する債権者が過半数だったりすると,小規模個人再生をすることができません。
個人再生の方法としては,もう一つ給与所得者等再生というのがありますが,
小規模個人再生のほうが支払総額が少なくて済むことが多いので,原則としては,小規模個人再生を選びます。


給与所得者等再生

給与所得者等再生の条件については,民事再生法239条が定めています。

 1 小規模個人再生を利用できる債務者のうち,給与などの定期的な収入を得る見込みがあること
 2 その収入の変動の幅が小さいと認められること

このように,小規模個人再生の条件にさらに条件が加えられます。
しかも,給与所得者等再生では,「可処分所得の2年分」を弁済しなければなりません(民事再生法241条3項)。
このため,支払総額は小規模個人再生より多くなってしまうことが普通です。

その代わり,再生計画案に反対する債権者がいくらいてもよいというメリットがあります。
ですから,反対する債権者が少なければ小規模個人再生をして,反対する債権者が多い場合には給与所得者等再生をする,というかたちで申し立てます。


受任

相談をして,弁護士に依頼して個人再生をするということになると,個人再生の受任をします。

弁護士が個人再生を受任すると,債権者に対して,「受任通知」という手紙を発送します。

この受任通知を発送した後に,借金を支払うことはできませんので,ご注意下さい。

ただし,住宅ローンがある方で,住宅資金特別条項を利用する方は,そのまま支払うのが普通です。
住宅ローンを支払うかどうかは,弁護士にきちんと確認をとって下さい。

受任通知を受け取ると,貸金業者は弁護士としか接触をしてはならなくなります。
この規制は,銀行や個人には及びませんが,たいていの債権者は弁護士に連絡をしますので,ご本人はかなり楽になるようです。


債務の調査・申立ての準備

受任通知を出すのと並行して,ご本人には必要な資料(けっこうたくさんあります。)を準備してもらい,家計簿も付けてもらいます。
債務の調査が終わったら,個人再生の申立書を作るため,打ち合わせをします。
個人再生の申立てを急がなければならないような特別の事情がなければ,受任してから申立てまでに3か月くらいかかります。
弁護士費用を一括で用意できない方の場合は,弁護士費用が貯まった段階で申立てをします。


個人再生の申立て

ご本人との打ち合わせが終わり,再生申立書を完成させたら,裁判所に提出します。
この提出は弁護士が行い,これが「申立て」ということです。
再生申立書を出すと,裁判所から質問を受けたり,追加資料の提出を求められたりします。


再生計画案の提出

個人再生を申し立ててから2~3か月くらい後に,再生計画案を提出します。
この再生計画案は弁護士が作りますが,「1か月にどれくらいの返済ができるか」ということは,もちろんご本人に考えてもらわなければなりません。

個人再生を弁護士に依頼しないでやるのはかなり難しいのですが,なかでも大変なのは再生計画案を提出することだと思います。


再生計画の認可

小規模個人再生では再生計画案が決議に付されます(民事再生法230条3項)。

決議と言っても,集会を開くわけではなく,書面での決議ですので,債務者が債権者と顔を合わせるということはありません。
半分以上の債権者・債権額の反対がなければ再生計画案は可決され(同6項),とくに問題がなければ裁判所に認可されます(民事再生法231条1条)。


給与所得者等再生の場合は,さらに認可される条件がゆるやかです(民事再生法241条1項)。


認可の決定がなされ,債権者から異議が出ずに確定すれば,再生計画案どおりに弁済していきます。