債権債務がないことを確認する条項

裁判所で和解や調停が成立したときには,和解調書や調停調書が作られます。
(ちなみに,離婚調停では,当事者がくださいと言わない限り裁判所は調停調書をくれないみたいですので,きちんと申請をしたほうがいいです。)
当事者どうしで,裁判をせずに和解したときも,和解書を作るのが普通です。

そこには,たいてい,
「甲と乙との間には,本条項に定めるほか,何らの債権債務がないことを確認する。」
というような意味の条項(「清算条項」といいます。)があります。


これは,「和解調書,調停調書,和解書に書かれていること以外の権利は,お互いに主張できない。」という意味です。
和解や調停成立後に発生した権利は主張できますが,その前に発生していた権利は主張できなくなってしまうのです。

和解や調停というのは,これで争いをやめて,お互い蒸し返しをしないことに意味がありますので,「債権債務なし」の条項を入れることはとても大切です。

ところが,和解や調停をしたときには,権利があることを気づいていなかったときはどうでしょうか?
さらに,AさんがBさんに対して何らかの権利があった場合に,Bさんはそのことを知っていたが,Aさんが気づいていなかったようなので,これ幸いと思って権利があることを隠したまま和解したようなケースではどうでしょうか?

和解が成立するためには,ある権利や義務があるのかどうかが争いとなったが,お互いにその権利や義務について譲歩をして,争いをやめることが必要です。
ですから,一方の当事者が,そもそもある権利があることに気づいていなかった場合には,和解は成立していないというのが筋の通った考え方だと思います。

この点については,最高裁平成27年9月15日判決が,過払金があることを知らずに「特定調停」という裁判所の手続きで「債権債務なし」の調停をしたケースについて,特定調停の手続きでは過払金のことは話題になっていなかったので,「債権債務なし」の調停をしても,その後に過払金を請求できるとしました。
ただ,このケースは,「特定調停」という法律に基づいた裁判所の手続きなので,「過払金のことはテーマではなかった」ということが言いやすかったといえます。
特定調停以外の場合では,「債権債務なし」の和解や調停をした後で,ある権利が「話題となったかどうか」が争いになることがあります。
ですから,和解をするときには,「債権債務なし」という和解をして本当に問題がないのか,できれば弁護士に相談したほうがいいと思います。