交通事故で請求できるもの


被害者が加害者に対して何を請求できるのかというのは,もちろん事故によって違いますが,ある程度の基準があります。


物的損害(自動車の修理代など)

自分の自動車の修理や買替が必要になった場合は,その費用を請求することができます。

修理費用はそのまま認められるのが原則ですが,修理費用が高くなり,買い替えたほうが安くつくという場合があります。

これを「経済的全損」といいます。

自動車が大破してしまって,修理のしようがない場合は「物理的全損」というのですが,これに対して,修理はできるけど買い替えたほうが費用が抑えられる場合が「経済的全損」です。

経済的全損の場合に修理費用と比較されるのは,あくまで,「同じ年式で同じ程度に走った車を中古で買った場合の代金」です。

ですから,あまり市場に出回っていない車や田舎の場合だと,「実際にはその値段で同じ車は買えない。」ということがあります。

この場合は,買替費用をできるだけ高く見てもらえるよう交渉をする必要があります。


治療費・通院交通費

症状固定前にかかった病院代ですが,これは,普通の場合は相手方の保険会社が支払います。

ですが,相手方が保険に入ってなかったり,相手方が保険に入っている場合でも治療方針について被害者と加害者で対立がある場合などには,訴訟などで請求しなければならないこともあります。


入院雑費

交通事故にあって入院した場合,パジャマ代やガーゼ代など,細かな出費があります。

大きな出費があった場合はきちんと計算するのですが,そうでなければ,1日あたり1500円ということで入院雑費を計算します。

 

入院・通院付添費

たとえば30代の男性が交通事故で入院し,その妻が入院中に付き添ったからといって,当然に入院付添費が認められるかというと,そう簡単ではありません。

現在の日本の病院では「完全看護」(基準看護)という建前があるため,家族が付き添う必要はなかったと言われてしまうからです。

ですが,「完全看護」(基準看護)は建前ですから,患者の病状や看護体制を具体的に立証すれば,付添費が認められる場合もあります。

もっとも,患者が乳幼児だったり医師の指示がある場合だと,付添費は認められやすくなります。

家族が付き添った場合だと,認められる付添費は,入院だと1日6500円くらいで,通院だと1日3300円くらいです。

仕事を休んで付き添う場合や他人にお金を払って付き添いを依頼するときには,あとで付添費が認められない場合があるということを踏まえてください。

 

休業損害

「休業損害」とは,症状固定前に,交通事故によって負った傷害のために仕事ができなかったことから生じた損害です。

通常は,事故にあう直前の年収から,1日当たりの収入額を算出し,これに入院や通院で仕事を休んだ日数をかけて休業損害を出します。

月によって収入の変動が激しい人や仕事についた人は,その分を加味して適切な休業損害を出します。

専業主婦でも,休業損害を計算することは可能です。「賃金センサス」という,労働者の給与の平均値を載せた表があるので,女子労働者の平均年収で計算をします。

 

逸失利益

「休業損害」は,症状固定前に仕事を休んだことによる損害でした。

これに対して,「逸失利益」とは,症状固定後に減収が生じることの損害です。これは未来のことなので,あくまで可能性で計算します。

症状固定後の話ですので,後遺障害が認められない場合には逸失利益は生じないとされています。

実際には痛みやしびれなどがあっても,後遺障害がなければ,減収はないと扱われます。なかなか納得できない方もいらっしゃいますが,仕方のないことです。

後遺障害は,「第●級」という形で等級が出ますので,この等級に応じて逸失利益を計算します。

後遺障害があっても給与が減らない人もいますが,その場合でも後遺障害があればその分の逸失利益があるものとして計算されるのが普通です。

これは,「本人の努力で今の給与を維持している」という理屈で逸失利益があるとされます。

それでは,何歳分まで逸失利益を請求できるかというと,原則は67歳まで働くことができると仮定して計算をします。

また,高齢の場合には「平均余命までの2分の1の期間は働く」と仮定して計算をします。

 

逸失利益の金額が大きくなることが多いので,交通事故では,症状が固定して後遺障害が認められるかどうかで方向性が違ってきます。

 

慰謝料

交通事故では,

 死亡した本人の慰謝料

 遺族固有の慰謝料

 入通院慰謝料

 後遺障害がついた場合の後遺症慰謝料

があります。

被害者が死亡した場合だと2000万~3000万円で,

遺族(親・子・配偶者)の慰謝料が100~300万円くらいです。

 

入通院慰謝料は,症状固定までに,どのくらいの期間,入院や通院をしたかで慰謝料の金額が変わります。

 

後遺症慰謝料は,後遺障害の等級によってほぼ定型的に決まります。

第1級だと2800万円,第14級だと110万円が基準です。

 

弁護士費用

交通事故の損害賠償は,示談交渉からはじめるものの,訴訟まで行くケースが多いと言えます。

これは,一つには,保険会社の提示額が,示談交渉段階から訴訟段階になると大きく増えることが多いからです。

私も,依頼者がどうしても訴訟はしたくないというケースを除いて,訴訟を提起することにしています。

訴訟を提起した場合でも,和解によって訴訟が終わることもあれば,判決まで行くこともあります。

判決の場合,弁護士費用が認められるのが普通ですし,和解する場合でも,弁護士費用を盛り込んだ金額で和解することが多いです。

弁護士費用は,通常,損害の1割程度で認められますので,依頼者が実際に弁護士にいくら支払ったのかとは無関係に決められます。